雨降って地固まる。自然災害と偶然が生んだ「加賀丸いも」って?
みなさん、石川県で栽培される伝統野菜「加賀丸いも」って知ってますか?
なんと作っているのは、能美市と小松市のごく限られた地域だけ。大洪水によって変化した土壌が、どこにも真似できないオンリーワンの芋を生み、それがやがて地域を代表する極上食材となっていく。まさに「雨降って地固まる」な壮大なストーリーが、加賀丸いもには隠されているんです。
最大の特徴は、すりおろしたときのモッチリとした強い粘り。独特の食感と滋味深い味わいを体験すると「ほかの山芋では物足りなくなる」とも言われています。栄養満点で免疫力を高める効果もあるそうなんですよ!
そんな加賀丸いもですが、11月〜2月が出荷の最盛期。一体どんなストーリーが隠されているのか、能美市の粟生地区で加賀丸いもを生産する近藤拓郎さんと、能美市でイタリアンを経営する石間夫妻を訪ねてみました。
まずは収穫最盛期の丸いも畑へ!
畑を訪れると収穫の真っ最中。
丸いも農家の近藤さんが今年栽培した14〜15トンの芋の中から、この日は2畝分をトラクターで掘り起こし、土を払いながらひとつずつ丁寧にカゴに入れていきます。
ーー 丸々として立派に育ってますね。
近藤さん:そうですね。品種自体が丸い形状になりやすいのに加えて、この地域の土は適度に粘り気があるので、芋が自由に膨らんで、まん丸の形に成長しやすいんです。丸いと皮が剥きやすいし、料理にも使いやすいのが特徴ですね。
ーー 丸いこと以外では、ほかの山芋となにが違うんですか?
近藤さん:長芋よりも水分の含有量が少ないのが加賀丸いもの特徴。ネバネバ成分も豊富で、すりおろした時に器をひっくり返しても落ちないくらい粘り強いんです。味はクセが少なく、それでいて濃厚。栄養素も豊富で、とくに食物繊維やビタミンが多く含まれています。
ーー 今年の出来はいかがですか?
近藤さん:今年は天候に恵まれたのもあって、出来の良い丸いもがたくさん取れました。粘り気がしっかりとしているし、サイズも形も高水準。産地全体としても豊作で、最上級品の「プレミアム」が過去最高値で落札されたんですよ。
独特な形のヒミツは特別な土壌にあった?
ーー 加賀丸いもはいつの時代から作られているんですか?
近藤さん:諸説ありますが、大正時代初期に澤田仁三松さんと秋田忠作さんが、伊勢参りの際に食べた伊勢いもの美味しさに感動して持ち帰り、栽培したのが始まりとされています。その当時は今とは違って、芋はデコボコした形だったそうです。
ーー どうして能美市と小松市の一部の地域でしか作られないんですか?
近藤さん:じつは手取川扇状地に位置するこの一帯は、土壌の性質が他とはちょっと違うんです。そのきっかけとなったのが、昭和初期に起こった手取川の大洪水。そのときに大量の川砂が流れ込んで、田んぼの泥と混ざりあい、大きな丸い形やすりおろした時の粘りなどの特徴が現れるようになったんです。
ーー 洪水によって丸いも栽培に適した土が生まれたんですね。
近藤さん:そうなんです。とくに砂地の環境が丸いもの栽培には重要で、土が硬すぎたり柔らかすぎたりすると芋が丸く育たないんですよ。
ーー ちなみに地元ではどうやって食べるのが一般的なんですか?
近藤さん:一番シンプルでおいしいのは、すりおろして「とろろ」にして食べる方法。出汁と混ぜるだけで簡単に食べられるし、持ち味の粘りと風味が楽しめます。ごはんや蕎麦にかけるのはもちろん、団子状にして鍋に入れてもおいしいですよ。
ーー 近藤さんのおすすめの食べ方は?
近藤さん:最近は、すりおろした丸いもにネギを混ぜて、そのまま素揚げにする食べ方にハマっています。外はサクッとしていて中はふわふわ。ネギの風味ともよく合います。冷めると粘りが少し減るので、揚げたてを食べるのがおすすめです。
加賀丸いものブランド力を高めるために
ーー 加賀丸いもを育てる上で、もっとも大切なことは?
近藤さん:土壌作りですね。植え付ける前の10月頃に畝をしっかり立てて、ひと冬じっくりと寝かせる。そうすることで土が締まって、芋が丸く育つベースができます。雨が多すぎても少なすぎても良くないので、土壌の水分管理も大事。雑草が多いと芋の成長が妨げられるので、夏場の草むしりも欠かせません。
ーー そんなに手間がかかるんですね…。
近藤さん:そうなんです。土の中で育つ作物なので、土壌をいかに最適化できるかが大事。ほかの野菜なら病気が出たら見た目で分かることが多いけど、芋は収穫するまで中の状態が見えないのが難しいところですね。「土が透明だったら良いのに」なんて何度思ったことか(笑)。でも、実際にはそうもいかないので、毎年収穫後の結果を踏まえて、少しずつ改善しています。
ーー ほかに土以外でこだわっていることはありますか?
近藤さん:芋に対する「愛情」ですね。冗談ではなく、育てる過程で一つひとつ丁寧に手をかけると、立派に育ってくれる気がするんです。あとは収穫した芋がどんな形でお客さんに届くのかを想像しながら、大切に扱うように心がけています。
ーー そういったこだわりが、形の良さやおいしさにつながるんですね。
近藤さん:僕たち生産者にとって「おいしかった」と言ってもらえることが一番の喜び。そういった意味では今まで以上にブランド力と生産力を高めて、加賀丸いもをもっと多くの人に知ってもらえるように取り組んでいきたいですね。
続いては、加賀丸いもの食材としての魅力を確かめるため、能美市の里山にあるイタリア料理店「イル ボッツォロ」に足を運びました。
素材にこだわる、里山のイタリアンへ
「イル ボッツォロ」は、リーズナブルな価格で本格的なイタリアンを提供するお店。2017年の開業以来、地元食材である加賀丸いもを使ったメニュー作りにも励んできました。
日本古来の固定種である加賀丸いもが、イタリアンシェフの手にかかるとどういった料理へと変貌するのでしょうか。
ーー どうして加賀丸いもをメニューに取り入れようと思ったんですか?
石間さん:加賀丸いもの存在は「加賀丸いもSDGsフェア」という、形が少し悪い丸いもをシェフが料理するというイベントで知りました。加賀丸いも自体は希少な食材ですが、地元ということで比較的手に入りやすいし、お客さんにも季節感を味わってもらえるかなと思って。毎年、秋冬の時期になると新しいメニュー作りにも挑戦しているんですよ。
ーー 食材として、加賀丸いものどんなところに魅力を感じますか?
石間さん:クセが少ないので、ほかの食材とも合わせやすいところが良いですね。煮ても、焼いても、揚げても、生でも。いろんな調理の仕方ができるので、料理の幅も広がります。
丸いもを練り込んだパスタにジビエソースが絡み合う
ーー これまでどういった料理を提供してきましたか?
石間さん:すりおろした丸いもに洋風ダシを加えて揚げたフリットだったり、丸いも入りの衣でエビを包んで揚げるアメリカンドッグ風前菜の一品だったり、おもに前菜としてご提供することが多いですね。そのほかでは加賀丸いもを練り込んだ自家製生パスタも好評でした。
ーー どうやって練り込むんですか?
石間さん:小麦粉に卵や水などを練り込む際に、すりおろした丸いもも一緒に加えるんです。ポイントは黒胡椒も一緒に練り込むこと。そうすることで丸いもの風味を生かしたアクセントのあるパスタに仕上がります。キタッラと呼ばれる四角い断面が特徴のパスタなので、加賀丸いもならではの弾力も楽しめるんですよ。
ーー ちなみにお店で加賀丸いもを下処理するときは、どんなことを気遣っていますか?
石間さん:皮を厚めに剥くことですね。そうしないとすぐに黒く変色してしまうんです。とはいっても、家庭で扱う場合はそこまで気にする必要はないかも。アク抜きも必要ないし、調理中に手袋さえ着用していれば手がかゆくなることもない。想像しているよりも扱いやすい食材だと思いますよ。
ーー 新メニューも楽しみにしています!
石間さん:ありがとうございます。加賀丸いものポテンシャルを生かしたメニューを考えるのも私たちの役目。完成した際にはぜひ食べに来てくださいね。
手取川扇状地の特別な土壌が生んだ、強い粘りと豊富な栄養が特徴の加賀丸いも。
石川県の豊かな自然に育まれたこの「百万石の極み」を、ぜひ食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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